P--1 '易行品C.txt P--2 P--3 #1十住毘婆沙論 #2易行品    十住毘婆沙論 巻第五                聖者龍樹造 後秦亀茲国三蔵鳩摩羅什訳   易行品 第九 【1】 問ひていはく、この阿惟越致の菩薩の初事は先に説くがごとし。阿惟越 致地に至るには、もろもろの難行を行じ、久しくしてすなはち得べし。あるい は声聞・辟支仏地に堕す。もししからばこれ大衰患なり。『助道法』のなかに 説くがごとし。   「もし声聞地、および辟支仏地に堕するは、   これを菩薩の死と名づく。すなはち一切の利を失す。   もし地獄に堕するも、かくのごとき畏れを生ぜず。   もし二乗地に堕すれば、すなはち大怖畏となす。   地獄のなかに堕するも、畢竟じて仏に至ることを得。 P--4   もし二乗地に堕すれば、畢竟じて仏道を遮す。   仏みづから『経』(清浄毘尼方広経)のなかにおいて、かくのごとき事を解   説したまふ。   人の寿を貪るもの、首を斬らんとすればすなはち大きに畏るるがごとく、   菩薩もまたかくのごとし。もし声聞地、   および辟支仏地においては、大怖畏を生ずべし」と。  このゆゑに、もし諸仏の所説に、易行道にして疾く阿惟越致地に至ることを 得る方便あらば、願はくはためにこれを説きたまへと。 【2】 答へていはく、なんぢが所説のごときは、これ&M001238;弱怯劣にして大心ある ことなし。これ丈夫志幹の言にあらず。なにをもつてのゆゑに。もし人願を発 して阿耨多羅三藐三菩提を求めんと欲して、いまだ阿惟越致を得ずは、その中 間において身命を惜しまず、昼夜精進して頭燃を救ふがごとくすべし。『助道』 のなかに説くがごとし。   「菩薩いまだ阿惟越致地に至ることを得ずは、   つねに勤精進して、なほ頭燃を救ひ、 P--5   重担を荷負するがごとくすべし。菩提を求むるためのゆゑに、   つねに勤精進して、懈怠の心を生ぜざるべし。   声聞乗・辟支仏乗を求むるもののごときは、   ただおのが利を成ぜんがためにするも、つねに勤精進すべし。   いかにいはんや菩薩のみづから度し、またかれを度せんとするにおいてを   や。   この二乗の人よりも、億倍して精進すべし」と。  大乗を行ずるものには、仏かくのごとく説きたまへり。「願を発して仏道を 求むるは三千大千世界を挙ぐるよりも重し」と。なんぢ、阿惟越致地はこの法 はなはだ難し。久しくしてすなはち得べし。もし易行道にして疾く阿惟越致地 に至ることを得るありやといふは、これすなはち怯弱下劣の言なり。これ大人 志幹の説にあらず。なんぢ、もしかならずこの方便を聞かんと欲せば、いまま さにこれを説くべし。 【3】 仏法に無量の門あり。世間の道に難あり易あり。陸道の歩行はすなはち 苦しく、水道の乗船はすなはち楽しきがごとし。菩薩の道もまたかくのごとし。 P--6 あるいは勤行精進のものあり、あるいは信方便易行をもつて疾く阿惟越致に 至るものあり。 【4】 偈に説くがごとし。   東方善徳仏、南栴檀徳仏、   西無量明仏、北方相徳仏、   東南無憂徳、西南宝施仏、   西北華徳仏、東北三行仏、   下方明徳仏、上方広衆徳、   かくのごときもろもろの世尊、いま現に十方にまします。   もし人疾く不退転地に至らんと欲せば、   恭敬心をもつて、執持して名号を称すべしと。 【5】 もし菩薩この身において阿惟越致地に至ることを得て、阿耨多羅三藐三 菩提を成就せんと欲せば、まさにこの十方諸仏を念じ、その名号を称すべし。 『宝月童子所問経』の「阿惟越致品」のなかに説きたまふがごとし。「仏、宝 月に告げたまはく、〈東方ここを去ること無量無辺不可思議恒河沙等の仏土を P--7 過ぎて世界あり。無憂と名づく。その地平坦にして七宝をもつて合成し、紫磨 金縷をもつてその界に交絡せり。宝樹羅列して、もつて荘厳となす。地獄・畜 生・餓鬼・阿修羅道およびもろもろの難処あることなし。清浄にして穢れな く、沙礫・瓦石・山陵・堆阜・深坑・幽壑あることなし。天よりつねに華を雨 らして、もつてその地に布けり。時に世に仏まします。号して善徳如来・応 供・正遍知・明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・天人師・仏・世尊 といふ。大菩薩衆恭敬し囲繞す。身相の光色大金山を燃やすがごとく、大珍宝 聚のごとし。もろもろの大衆のために広く正法を説きたまふ。初・中・後よく 辞あり義あり。所説雑はらず。具足し、清浄にして、如実にして失せず。な にをか失せずといふ。地・水・火・風を失せず、欲界・色界・無色界を失せず、 色・受・想・行・識を失せざるなり。宝月、この仏成道よりこのかた六十億劫 を過ぎたまへり。またその仏国は昼夜異なることなし。ただこの間の閻浮提の 日月歳数をもつてかの劫寿を説く。その仏の光明つねに世界を照らしたまふ。 一の説法において、無量無辺千万億阿僧祇の衆生をして無生法忍に住せしめ、 この人数に倍して初忍・第二・第三忍に住することを得しめたまふ。宝月、そ P--8 の仏の本願力のゆゑに、もし他方の衆生ありて、先仏の所においてもろもろの 善根を種ゑんに、この仏ただ光明をもつて身に触れたまふに、すなはち無生法 忍を得。宝月、もし善男子・善女人ありてこの仏の名を聞きてよく信受するも のは、すなはち阿耨多羅三藐三菩提を退せず〉」と。余の九仏の事みなまたか くのごとし。いままさに諸仏の名号および国土の名号を解説すべし。「善徳」 といふは、その徳淳善にしてただ安楽のみあり。諸天・竜神の福徳の、衆生を 惑悩するがごときにはあらず。「栴檀徳」といふは、南方ここを去ること無量 無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、歓喜と名づく。仏を栴檀徳と号す。いま 現にましまして法を説きたまふ。たとへば栴檀の香ばしくして清涼なるがご とく、かの仏の名称遠く聞ゆること、香の流布するがごとし。衆生の三毒の 火熱を滅除して清涼なることを得しむ。「無量明仏」といふは、西方ここを 去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、善と名づく。仏を無量明 と号す。いま現にましまして法を説きたまふ。その仏の身光および智慧明照 にして無量無辺なり。「相徳仏」といふは、北方ここを去ること無量無辺恒河 沙等の仏土にして世界あり、不可動と名づく。仏を相徳と名づく。いま現にま P--9 しまして法を説きたまふ。その仏の福徳高顕なること、なほ幢相のごとし。 「無憂徳」といふは、東南方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世 界あり、月明と名づく。仏を無憂徳と号す。いま現にましまして法を説きたま ふ。その仏の神徳もろもろの天・人をして憂愁あることなからしむ。「宝施仏」 といふは、西南方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、衆 相と名づく。仏を宝施と号す。いま現にましまして法を説きたまふ。その仏も ろもろの無漏の根・力・覚・道等の宝をもつてつねに衆生に施す。「華徳仏」 といふは、西北方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、衆 音と名づく。仏を華徳と号す。いま現にましまして法を説きたまふ。その仏の 色身、なほ妙華のごとく、その徳無量なり。「三乗行仏」といふは、東北方 ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、安穏と名づく。仏を 三乗行と号す。いま現にましまして法を説きたまふ。その仏つねに声聞の行、 辟支仏の行、もろもろの菩薩の行を説きたまふ。ある人いはく、「上・中・下 の精進を説くがゆゑに、号して三乗行となす」と。「明徳仏」といふは、下 方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、広大と名づく。仏 P--10 を明徳と号す。いま現にましまして法を説きたまふ。明とは身明・智慧明・宝 樹光明に名づく。この三種の明つねに世間を照らす。「広衆徳」といふは、上 方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、衆月と名づく。仏 を広衆徳と号す。いま現にましまして法を説きたまふ。その仏の弟子福徳広大 なるがゆゑに広衆徳と号す。いまこの十方の仏、善徳を初めとなし、広衆徳を 後となす。もし人一心にその名号を称すれば、すなはち阿耨多羅三藐三菩提を 退せざることを得。 【6】 偈に説くがごとし。   もし人ありてこの諸仏の名を説くを聞くことを得れば、   すなはち無量の徳を得。宝月のために説きたまふがごとし。   われこの諸仏を礼したてまつる。いま現に十方にまします。   それ名を称することあれば、すなはち不退転を得。   東方に無憂界あり、その仏を善徳と号す。   色相金山のごとし。名の聞ゆること辺際なし。   もし人名を聞けば、すなはち不退転を得。 P--11   われいま合掌し礼したてまつる。願はくはことごとく憂悩を除きたまへ。   南方に歓喜界あり、仏を栴檀徳と号す。   面の浄きこと満月のごとし。光明量りあることなし。   よくもろもろの衆生の三毒の熱悩を滅したまふ。   名を聞くもの不退を得。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   西方に善世界あり、仏を無量明と号す。   身光・智慧あきらかにして、照らすところ辺際なし。   その名を聞くことあれば、すなはち不退転を得。   われいま稽首し礼したてまつる。願はくは生死の際を尽したまへ。   北方に無動界あり、仏を号して相徳となす。   身にもろもろの相好を具し、もつてみづから荘厳し、   魔怨の衆を摧破し、よくもろもろの人天を化したまふ。   名を聞けば不退を得。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   東南の月明界に、仏ましまして無憂と号す。   光明日月に喩へ、遇ふもの煩悩を滅す。 P--12   つねに衆のために法を説き、もろもろの内外の苦を除きたまふ。   十方の仏称讃したまふ。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   西南に衆相界あり、仏を号して宝施となす。   つねにもろもろの法宝をもつて、広く一切に施したまふ。   諸天頭面をもつて礼して、宝冠足下にあり。   われいま五体をもつて、宝施尊を帰命したてまつる。   西北に衆音界あり、仏を号して華徳となす。   世界にもろもろの宝樹ありて、妙法音を演出す。   つねに七覚の華をもつて、衆生を荘厳す。   白毫相月のごとし。われいま頭面をもつて礼したてまつる。   東北の安穏界、諸宝をもつて合成するところなり。   仏を三乗行と号す。無量の相をもつて身を厳りたまふ。   智慧の光無量にして、よく無明の闇を破したまへば、   衆生に憂悩なし。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   上方の衆月界、衆宝をもつて荘厳するところなり。 P--13   大徳の声聞衆、菩薩量りあることなし。   諸聖のなかの獅子なり。号して広衆徳とのたまふ。   諸魔の怖畏するところなり。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   下方に広世界あり、仏を号して明徳となす。   身相妙にして、閻浮檀金山に超絶す。   つねに智慧の日をもつて、もろもろの善根の華を開きたまふ。   宝土はなはだ広大なり。われはるかに稽首し礼したてまつる。   過去無数劫に、仏ましまして海徳と号す。   このもろもろの現在の仏、みなかれに従ひて願を発せり。   寿命量りあることなし。光明照らして極まりなし。   国土はなはだ清浄なり。名を聞けばさだめて仏に作る。   いま現に十方にましまして、十力を具足し成じたまふ。   このゆゑに人天のなかの最尊を稽首し礼したてまつると。 【7】 問ひていはく、ただこの十仏の名号を聞きて、執持して心に在けば、す なはち阿耨多羅三藐三菩提を退せざることを得。さらに余仏・余菩薩の名まし P--14 まして、阿惟越致に至ることを得となすや。 【8】 答へていはく、阿弥陀等の仏およびもろもろの大菩薩、名を称し一心に 念ずれば、また不退転を得。また阿弥陀等の諸仏ましまして、また恭敬礼拝し、 その名号を称すべし。 【9】 いままさにつぶさに説くべし。無量寿仏・世自在王仏・師子意仏・法意 仏・梵相仏・世相仏・世妙仏・慈悲仏・世王仏・人王仏・月徳仏・宝徳仏・相 徳仏・大相仏・珠蓋仏・師子鬘仏・破無明仏・智華仏・多摩羅跋栴檀香仏・持 大功徳仏・雨七宝仏・超勇仏・離瞋恨仏・大荘厳仏・無相仏・宝蔵仏・徳頂 仏・多伽羅香仏・栴檀香仏・蓮華香仏・荘厳道路仏・竜蓋仏・雨華仏・散華 仏・華光明仏・日音声仏・蔽日月仏・琉璃蔵仏・梵音仏・浄明仏・金蔵仏・ 須弥頂仏・山王仏・音声自在仏・浄眼仏・月明仏・如須弥山仏・日月仏・得衆 仏・華生仏・梵音説仏・世主仏・師子行仏・妙法意師子吼仏・珠宝蓋珊瑚色 仏・破痴愛闇仏・水月仏・衆華仏・開智慧仏・持雑宝仏・菩提仏・華超出 仏・真琉璃明仏・蔽日明仏・持大功徳仏・得正慧仏・勇健仏・離諂曲仏・除悪 根栽仏・大香仏・道映仏・水光仏・海雲慧遊仏・徳頂華仏・華荘厳仏・日音声 P--15 仏・月勝仏・琉璃仏・梵声仏・光明仏・金蔵仏・山頂仏・山王仏・音王仏・竜 勝仏・無染仏・浄面仏・月面仏・如須弥仏・栴檀香仏・威勢仏・燃灯仏・難 勝仏・宝徳仏・喜音仏・光明仏・竜勝仏・離垢明仏・師子仏・王王仏・力勝 仏・華歯仏・無畏明仏・香頂仏・普賢仏・普華仏・宝相仏なり。このもろもろ の仏世尊現に十方の清浄世界にまします。みな名を称し憶念すべし。 【10】 阿弥陀仏の本願はかくのごとし、「もし人われを念じ名を称してみづか ら帰すれば、すなはち必定に入りて阿耨多羅三藐三菩提を得」と。このゆゑに つねに憶念すべし。 【11】 偈をもつて〔阿弥陀仏を〕称讃せん。   無量光明慧あり、身は真金山のごとし。   われいま身口意をもつて、合掌し稽首し礼したてまつる。   金色の妙光明、あまねくもろもろの世界に流れて、   物に随ひてその色を増す。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   もし人命終の時に、かの国に生ずることを得れば、   すなはち無量の徳を具す。このゆゑにわれ帰命したてまつる。 P--16   人よくこの仏の無量力威徳を念ずれば、   即時に必定に入る。このゆゑにわれつねに念じたてまつる。   かの国の人命終して、たとひもろもろの苦を受くべきも、   悪地獄に堕せず。このゆゑに帰命し礼したてまつる。   もし人かの国に生ずれば、つひに三趣および阿修羅に堕せず。   われいま帰命し礼したてまつる。   人天の身相同じくして、なほ金山の頂のごとし。   諸勝の所帰の処なり。このゆゑに頭面をもつて礼したてまつる。   それかの国に生ずることあれば、天眼耳通を具して、   十方にあまねく無礙なり。聖中の尊を稽首したてまつる。   その国のもろもろの衆生は、神変および心通、   また宿命智を具す。このゆゑに帰命し礼したてまつる。   かの国土に生ずれば、我なく我所なし。   彼此の心を生ぜず。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   三界の獄を超出して、目は蓮華葉のごとし。 P--17   声聞衆無量なり。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   かの国のもろもろの衆生、その性みな柔和にして、   自然に十善を行ず。衆聖の王(阿弥陀仏)を稽首したてまつる。   善より浄明を生ずること、無量無辺数にして、   二足のなかの第一なり。このゆゑにわれ帰命したてまつる。   もし人仏に作らんと願じて、心に阿弥陀を念ずれば、   時に応じてために身を現したまふ。このゆゑにわれ、   かの仏の本願力を帰命したてまつる。十方のもろもろの菩薩、   来りて供養し法を聴く。このゆゑにわれ稽首したてまつる。   かの土のもろもろの菩薩は、もろもろの相好を具足し、   もつてみづから身を荘厳す。われいま帰命し礼したてまつる。   かのもろもろの大菩薩、日々三時に、   十方の仏を供養したてまつる。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   もし人善根を種うるも、疑へばすなはち華開けず。   信心清浄なれば、華開けてすなはち仏を見たてまつる。 P--18   十方現在の仏、種々の因縁をもつて、   かの仏の功徳を歎じたまふ。われいま帰命し礼したてまつる。   その土はなはだ厳飾にして、かのもろもろの天宮に殊なり、   功徳はなはだ深厚なり。このゆゑに仏足を礼したてまつる。   仏足の千輻輪は、柔軟にして蓮華の色あり。   見るものみな歓喜す。頭面をもつて仏足を礼したてまつる。   眉間の白毫の光は、なほ清浄なる月のごとし。   面の光色を増益す。頭面をもつて仏足を礼したてまつる。   本仏道を求むる時、もろもろの奇妙の事を行じたまふ。   諸経の所説のごとし。頭面をもつて稽首し礼したてまつる。   かの仏の言説したまふところ、もろもろの罪根を破除す。   美言にして益するところ多し。われいま稽首し礼したてまつる。   この美言の説をもつて、もろもろの着楽の病を救ひたまふ。   すでに度しいまなほ度したまふ。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   人天のなかの最尊なり。諸天頭面をもつて礼し、 P--19   七宝の冠足を摩づ。このゆゑにわれ帰命したてまつる。   一切の賢聖衆、およびもろもろの人天衆、   ことごとくみなともに帰命す。このゆゑにわれもまた礼したてまつる。   かの八道の船に乗じて、よく難度海を度したまふ。   みづから度しまたかれを度したまふ。われ自在者を礼したてまつる。   諸仏無量劫に、その功徳を讃揚せんに、   なほ尽すことあたはず。清浄人を帰命したてまつる。   われいままたかくのごとく、無量の徳を称讃す。   この福の因縁をもつて、願はくは仏つねにわれを念じたまへ。   わが今・先世における福徳、もしは大小、   願はくはわれ仏の所において、心つねに清浄なることを得ん。   この福の因縁をもつて、獲るところの上妙の徳、   願はくはもろもろの衆生の類も、みなまたことごとくまさに得べしと。 【12】 また毘婆尸仏・尸棄仏・毘首婆伏仏・拘楼珊提仏・迦那迦牟尼仏・迦葉 仏・釈迦牟尼仏および未来世の弥勒仏を念ずべし。みな憶念し礼拝すべし。偈 P--20 をもつて称讃せん。   毘婆尸世尊、無憂道樹の下にして、   一切智を成就して、微妙のもろもろの功徳あり。   まさしく世間を観じ、その心解脱を得たまふ。   われいま五体をもつて、無上尊を帰命したてまつる。   尸棄仏世尊、分陀利道場樹の下にましまして坐し、   菩提を成就したまふ。   身色比あることなし。燃ゆる紫金山のごとし。   われいまみづから三界の無上尊を帰命したてまつる。   毘首婆世尊、娑羅樹の下に坐し、   自然に一切の妙智慧に通達することを得たまふ。   もろもろの人天のなかにおいて、第一にして比あることなし。   このゆゑにわれ一切最勝尊を帰命したてまつる。   迦求村大仏は、阿耨多羅三藐三菩提を、   尸利沙樹の下に得たまひて、 P--21   大智慧を成就し、永く生死を脱したまふ。   われいま第一無比尊を帰命し礼したてまつる。   迦那含牟尼、大聖無上尊、   優曇鉢樹の下にして、仏道を成就し得て、   一切法は無量にして辺あることなしと通達したまふ。   このゆゑにわれ第一無上尊を帰命したてまつる。   迦葉仏世尊、眼は双蓮華のごとし。   弱拘楼陀樹の下において仏道を成ず。   三界に畏るるところなし。行歩すること象王のごとし。   われいまみづから無極尊を帰命し稽首したてまつる。   釈迦牟尼仏、阿輸陀樹の下にして、   魔の怨敵を降伏し、無上道を成就したまふ。   面貌満月のごとく、清浄にして瑕塵なし。   われいま勇猛第一尊を稽首し礼したてまつる。   当来の弥勒仏、那伽樹の下に坐して、 P--22   広大の心を成就し、自然に仏道を得たまはん。   功徳はなはだ堅牢にして、よく勝るるものあることなからん。   このゆゑにわれみづから無比妙法王に帰したてまつると。 【13】 また徳勝仏・普明仏・勝敵仏・王相仏・相王仏・無量功徳明自在王仏・ 薬王無&M041289;仏・宝遊行仏・宝華仏・安住仏・山王仏まします。また憶念し恭敬し 礼拝すべし。偈をもつて称讃せん。   無勝世界のなかに、仏ましまして徳勝と号す。   われいまおよび法宝・僧宝を稽首し礼したてまつる。   随意喜世界に、仏ましまして普明と号す。   われいまみづからおよび法宝・僧宝を帰命したてまつる。   普賢世界のなかに、仏ましまして勝敵と号す。   われいまおよび法宝・僧宝を帰命し礼したてまつる。   善浄集世界あり、仏を王幢相と号す。   われいまおよび法宝・僧宝を稽首し礼したてまつる。   離垢集世界の無量功徳明、 P--23   十方に自在なり。このゆゑに稽首し礼したてまつる。   不誑世界のなかの無礙薬王仏、   われいま頭面をもつておよび法宝・僧宝を礼したてまつる。   今集世界のなかの仏を宝遊行と号す。   われいま頭面をもつておよび法宝・僧宝を礼したてまつる。   美音界の宝華安立山王仏、   われいま頭面をもつておよび法宝・僧宝を礼したてまつる。   いまこのもろもろの如来、住して東方界にまします。   われ恭敬の心をもつて称揚し帰命し礼したてまつる。   ただ願はくはもろもろの如来、深く加するに慈愍をもつてし、   身を現じてわが前にましまして、みな目をして見ることを得しめたまへと。 【14】 また次に過去・未来・現在の諸仏、ことごとく総じて念じ恭敬し礼拝す べし。偈をもつて称讃せん。   過去世の諸仏、もろもろの魔怨を降伏し、   大智慧力をもつて、広く衆生を利す。 P--24   かの時のもろもろの衆生、心を尽してみな供養し、   恭敬して称揚す。このゆゑに頭面をもつて礼したてまつる。   現在十方界の不可計の諸仏、   その数恒沙に過ぐ。無量にして辺あることなし。   もろもろの衆生を慈愍し、つねに妙法輪を転じたまへり。   このゆゑにわれ恭敬し、帰命し稽首し礼したてまつる。   未来世の諸仏、身色金山のごとく、   光明量りあることなし。衆相みづから荘厳す。   出世して衆生を度し、まさに涅槃に入りたまふべし。   かくのごときもろもろの世尊、われいま頭面をもつて礼したてまつると。 【15】 またもろもろの大菩薩を憶念すべし。善意菩薩・善眼菩薩・聞月菩薩・ 尸毘王菩薩・一切勝菩薩・知大地菩薩・大薬菩薩・鳩舎菩薩・阿離念弥菩薩・ 頂生王菩薩・喜見菩薩・鬱多羅菩薩・薩和檀菩薩・長寿王菩薩・&M028594;提菩薩・ 韋藍菩薩・&M023412;菩薩・月蓋菩薩・明首菩薩・法首菩薩・成利菩薩・弥勒菩薩なり。 また金剛蔵菩薩・金剛首菩薩・無垢蔵菩薩・無垢称菩薩・除疑菩薩・無垢徳菩 P--25 薩・網明菩薩・無量明菩薩・大明菩薩・無尽意菩薩・意王菩薩・無辺意菩 薩・日音菩薩・月音菩薩・美音菩薩・美音声菩薩・大音声菩薩・堅精進菩薩・ 常堅菩薩・堅発菩薩・荘厳王菩薩・常悲菩薩・常不軽菩薩・法上菩薩・法意 菩薩・法喜菩薩・法首菩薩・法積菩薩・発精進菩薩・智慧菩薩・浄威徳菩薩・ 那羅延菩薩・善思惟菩薩・法思惟菩薩・跋陀波羅菩薩・法益菩薩・高徳菩薩・ 師子遊行菩薩・喜根菩薩・上宝月菩薩・不虚徳菩薩・竜徳菩薩・文殊師利菩 薩・妙音菩薩・雲音菩薩・勝意菩薩・照明菩薩・勇衆菩薩・勝衆菩薩・威儀 菩薩・師子意菩薩・上意菩薩・益意菩薩・増意菩薩・宝明菩薩・慧頂菩薩・楽 説頂菩薩・有徳菩薩・観世自在王菩薩・陀羅尼自在王菩薩・大自在王菩薩・ 無憂徳菩薩・不虚見菩薩・離悪道菩薩・一切勇健菩薩・破闇菩薩・功徳宝菩 薩・華威徳菩薩・金瓔珞明徳菩薩・離諸陰蓋菩薩・心無&M041289;菩薩・一切行浄菩 薩・等見菩薩・不等見菩薩・三昧遊戯菩薩・法自在菩薩・法相菩薩・明荘厳 菩薩・大荘厳菩薩・宝頂菩薩・宝印手菩薩・常挙手菩薩・常下手菩薩・常惨菩 薩・常喜菩薩・喜王菩薩・得弁才音声菩薩・虚空雷音菩薩・持宝炬菩薩・勇施 菩薩・帝網菩薩・馬光菩薩・空無&M041289;菩薩・宝勝菩薩・天王菩薩・破魔菩薩・電 P--26 徳菩薩・自在菩薩・頂相菩薩・出過菩薩・師子吼菩薩・雲蔭菩薩・能勝菩薩・ 山相幢王菩薩・香象菩薩・大香象菩薩・白香象菩薩・常精進菩薩・不休息菩 薩・妙生菩薩・華荘厳菩薩・観世音菩薩・得大勢菩薩・水王菩薩・山王菩 薩・帝網菩薩・宝施菩薩・破魔菩薩・荘厳国土菩薩・金髻菩薩・珠髻菩薩、か くのごとき等のもろもろの大菩薩まします。みな憶念し恭敬し礼拝して阿惟越 致地を求むべし。